調査
現地観測に基づく
汚濁防止膜の抗力係数
付着生物調査
把駐力調査
汚濁防止膜の経過月数による
強度劣化に関する実海域実験

汚濁防止膜の経過月数による強度劣化に関する実海域実験

島田 伊浩(一般財団法人 港湾空港総合技術センター)
長尾 毅(神戸大学 都市安全研究センター)
一般社団法人 ウォーターフロント協会

1. 研究の目的
(1) はじめに

汚濁防止膜は、工事中に発生する汚濁の拡散を防止する環境対策を目的として設置され、設置期間中に汚濁防止膜の破損等により汚濁の流出があった場合は、自然環境の破壊など社会的に大きな影響を与えることになる。我が国における汚濁防止膜の実績は、約40年になり、現場における経験を重ね技術的には成熟された。
一方、我が国の港湾の整備は、配置的側面からみれば概成し、その重点は「新規整備」から「維持管理」に移行している。汚濁防止膜の設置形態についても、「新規整備」のための大規模に長期間の設置から、「維持管理」のために小規模に短期間の設置と変化してきてる。このため、新規に汚濁防止膜を購入して設置するものから、レンタル製品の利用が進められている。また、環境への負荷を軽減するための循環型社会形成の観点から、レンタル製品などの利用は大いに望まれるところであり、その社会的責任は大きいといえる。しかし、材料の使用目的からレンタル製品の利用は慎重に進める必要がある。
汚濁防止膜は、工事期間中の仮設構造物ではあるが、地形特性や気象、海象条件等を総合的に判断して設置する必要があり、多様な構造形式が存在する。その基本構成は、汚濁の拡散を防止するためのカーテン部、カーテン部を浮かすためのフロート部、張力を受け持つテンション部、および固定するための係留部からなる。一般に用いられる、固定式垂下型汚濁防止膜の構造を図-1に示す。
カーテン部は、直接的に汚濁の拡散を防止するための主要な部位であるが、他の部位より劣化による破損等が多いことが経験的に知られている。カーテン部には、外力として流圧力による「ふかれ」や波力が作用する。(図-2に垂下型の場合のカーテンの「ふかれ」の状況をイメージとして示す。)また、ポリエステル織物が一般に用いられ、外力や紫外線等による物理的・化学的作用により経時劣化が避けられない。
そのため、レンタル製品の利用にあたっては、試験片を採取し、強度の確認および試験片を採取した部分の補修を実施後に納品となり、その期間を必要とするため利用が進まない状況にある。この問題を解決するために、ポリエステル織布の使用期間と強度劣化の関係を明確にし、再利用時の強度試験を実施することなく納品することが可能になり、リサイクル製品の利用が推進されることに繋がる。

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(2) カーテンの性能照査

汚濁防止膜の設置にあたっては、設置目的、設置期間、設置場所の気象・海象条件や底質、期待する汚濁防止膜の効果及び対象となる工事の種類について総合的に判断する。カーテン生地の性能照査では、設置単位長さあたりのカーテンに作用する張力(N/m)をもとに設置期間を考慮して適切な部分係数を見込み、3cm幅所要強度が(1)式を満足するように生地を選定する

(1)


図-1 固定式垂下型汚濁防止膜の構造


図-2 流圧力による「ふかれ」の状況(イメージ)

ここに、T3:3cm幅カーテン強度(N/3cm)、TC:カーテンに作用する張力(N/m)、γC:部分係数である。ここで、カーテン生地の強度試験はJIS L 1096 ストリップ法に準拠して、3cm幅で引張試験が行われるのが一般的である。
このため、3cm幅の引張強度に相当する値がカーテン品番として与えられ、#300、#500、#800の3種類の品番のカーテンが我が国では生産されている。部分係数は式(2)により設定され、初期利用品については表-1の値が用いられる。

(2)

ここに、k1:経時劣化による影響を表す係数、k2:不確定要因によるばらつきを表す係数、k3:製品縫合による影響を表す係数である。
図-3に汚濁防止膜技術資料(案)1)におけるカーテンの経時劣化データと設計における設定の関係を示す。
汚濁防止膜のカーテン部は、その使用目的から利用中の供試体の採取を行うことができないため、図-3では実工事で使用された、出荷前の値と終了後の値の比をプロットしている。劣化の要因として考えられるものは、流圧力や波力などの外力による繰り返し疲労、日光や気象、付着生物による劣化など様々である。そのため、劣化の問題解決は、定量的な結果を要するために長い年月を要すること、材料がおかれた環境状況によって結果が大きく異なってくること、モデル的な試験によってデータが得られてもその結果が、どの部分に相当するかの判定が難しい状況にあり、かなり安全側の設定が行われている。
そこで、同一現場における経年劣化の実態を把握するため、実海域に汚濁防止膜を設置し、定期的に供試体を採取し物理的特性(引張強度)の関係を研究する。

表-1 初期利用品に対する部分係数


図-3 経時劣化データと設計における設定の関係

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2. 実験の内容
(1) 実験場所と期間

実験場所は、1年間継続的に汚濁防止膜の設置ができることや湾内で実施される他の事業に影響を与えないことから、新潟東港となった。実験場所の概要は、湾奥部で静穏な海域であり、流圧力や波力などの外力は、少ない場所となる。また、潮位変動も50cmと他の海域と比較して小さい場所といえる。実験場所の位置を写真-1に、実験の状況を写真-2に示す。
実験は、平成23年8月23日から平成24年10月2日に実施した。


写真-1 実験位置


写真-2 実験場所の状況

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(2) 自然条件

① 潮位
・朔望平均満潮面:H.W.L +0.50m
・朔望平均干潮面:L.W.L +0.00m
② 気温:平均13.9℃
③ 風速・風向:3.3m/s 最多風向 南
④ 通算日照時間:1,642.5時間

(3) 実験方法

汚濁防止膜は、新潟東港の実験海域にカーテン部1スパン(長さ20m、カーテン丈長3m)、フロート部φ400、を係留索で設置する。図-4に実験装置の全体図を示す。#300、#500、#800、別実験用の4種類(各4.8m)のカーテンと両端部(0.4m)のカーテンを補強ベルトで一体となるように補強ベルトで縫製した。設置後、定期的(原則1ヶ月毎)にカーテンの試験片を採取し、物理的特性試験を約1年間、継続調査し経年劣化の関係を検討する。


図-4 試験装置全体図


図-5 試験片採取位置図

#500のカーテンを例とした試験片の採取位置を図-5に示す。図中の数字は、採取した経過月数で、上部2段目の右側より順番に試験片を採取した。他の試料もこれと同様な位置で試験片を採取し、切取り箇所は、周辺に影響を与えないため、補修はしないこととした。

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(4) 試験内容

カーテンから試験片を採取後、付着生物を生地を傷めないように高圧洗浄機で除去し、引張試験によりその物理特性を把握する。採取した試験片の試験項目は以下とする。
・引張試験(強度、伸び)
・N=3の平均値(JIS L 1096 ストリップ法)
写真-3に引張試験の終了時の試験片の状況を示す。引張試験は、生地の「たて」と「よこ」の試験を実施しているが、「たて」方向に作用する力が大きいことから、試験結果の値は、「たて」の値を使用している。
平均気温と日照時間のデータは、気象庁のHPより引用した。実験に使用した試料の初期強度を表-3に示す。
本研究では、強度低下率は、残留強度に対する初期強度値の比として値を用いる。
伸び率は、試験片が引張られたときに耐えられる最大の力(引張強度)作用時の引張伸びの比率を表し、破断時の試料長さと試験前の試料長さの差を試験前の試料長さで除したものである。伸び率は、繊維の弾力性を表す指標となる。
前月からの強度低下率は、前月から当月の残留強度の差を初期強度で除したものである。これにより、当月あたりの強度低下の指標とする。

表-3 規格値に対する初期強度


写真-3 引張試験の終了時の状況

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3. 実験結果および考察
(1) 強度低下率と経過月数の関係

図-6は、経過月数と初期強度からの強度低下率と伸び率を併せて示したものである。以下に結果と考察を示す。なお、経過5,6月は積雪のため欠測となった。

図-6より、カーテンの強度は、規格強度に関係なく1年間で約60 %低下する。また、設置初期と比較すると、経過日数が長い範囲で強度の低下率が大きくなる傾向にある。この海域では、流圧力や波力等の大きな外力の影響が少ないことから、この実験での劣化要因としては、小さな波から生じるウエイトチェーンの引張りによる繰り返し疲労による劣化、ポリエステル織物の紫外線等による劣化、付着生物による劣化などが考えられる。
カーテンの強度低下率は、規格強度に関係なく設置初期と比較すると、経過日数が長い範囲でデータのばらつきがある。図-4に示すとおり実験装置のカーテンは補強バンドで一体化しているためカーテンの一部に大きな応力が働き劣化が進展したとは考えにくい。
付着生物は、経過日数が長いところで多く付着してくる。ばらつきが発生している要因としては、付着生物を除去するときに使用する高圧洗浄機による洗浄によるものと思われる。高圧洗浄は、洗浄者の目視により実施されるため、高圧水により、目視では確認できない部分でカーテンの繊維質が損傷し、このことにより強度のデータにばらつきが生じていると考えられる。
カーテンの破断時の伸び率は、規格強度や経過月数に影響なく約20%と一定である。また、図-7に示す伸び率と残留強度との関係では、#300では、比例傾向と見ることができるが、#500や#800では、伸び率と残留強度の相関性を見ることができない。図-8は、伸び率と前月からの強度低下率と関係を示しているが相関性を見ることができない。これより、伸び率から強度低下率の推定は困難と思われる。
設置初期における強度の低下は、規格値が高いカーテンの強度低下率が大きい値となる。これは、規格強度の高いカーテンが初期段階では、紫外線等の影響を受けやすいためと思われる。


図-6 規格強度別の初期値からの強度低下率


図-7 伸び率と残留強度の関係


図-8 伸び率と前月からの強度低下率の関係

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(2) 強度低下率と日照時間および気温との関係

図-9は、前月からの強度低下率と日照時間(月当たり)の関係を示したものである。また、図-10は、前月からの強度低下率と気温(月当たり)の関係を示したものである。これは、ポリエステル織物が紫外線等の影響により劣化の進むものと考えられるので、日照時間や気温と強度低下率を併せて表示することにより関係を明確にした。実験は、8月の夏期より開始され経過月数が5ヶ月で12月となり、日照時間、気温とも低い値となる。その後、経過月が12ヶ月で8月となるため、上昇している。日照時間の11ヶ月で低い値となるのは、梅雨のため日照時間の低下と思われる。図-11,12は、前月からの強度低下率と日照時間(月当たり)、前月からの強度低下率と平均気温(月当たり)の関係を示している。図-9〜12より以下に示す結果と考察が得られた。

図-11,12より、カーテンの強度低下率は、規格強度に関係なく気温や日照時間との高い相関は認められない。これは、カーテンの強度劣化の要因に日照時間や気温が大きく関係していないものと思われる。
設置初期(経過4月まで)には、強度低下率の低下と日照時間の短縮と気温の低下とが相関している。これは、設置初期段階では、カーテン生地に生物が付着する前の状態であり、紫外線等の影響を直接受けるためカーテンの強度の低下と日照時間等の関係が相関しているものと思われる。
前月からの強度低下率だけに着目すると、強度低下率が前月よりマイナスの値の異常値として除外すると、設置初期の値より設置後期の方が強度低下率が大きい値となる。これにより、汚濁防止膜のカーテンの経年劣化は、初期段階では緩やかに進行し、設置期間が長いところで、強度劣化が進展することが判明した。
8月の夏期より実験を開始したため、設置初期から日照時間や気温やが低下し、設置6ヶ月後から日照時間や気温が上昇する結果となった。一般の地区での工事では、手続きの関係で夏期に工事を開始する場合が多いので実験の状況は、実工事に結びつくことになると考える。


図-9 前月からの強度低下率と日照時間(月当たり)の関係


図-10 前月からの強度低下率と平均気温(月当たり)との関係


図-11 前月からの強度低下率と日照時間(月当たり)との関係


図-12 前月からの強度低下率と平均気温(月当たり)の関係

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4. まとめ

汚濁防止膜のレンタル製品の利用促進のために、経年劣化の関係について研究を行った。試験の結果、汚濁防止膜は、流圧力や波力等の外力が少ない環境に設置しても、カーテンの強度が経年劣化により、初期強度に関係なく1年間で約60%低下することが確認できた。この結果がレンタル製品の利用が促進されるための参考になれば幸いである。
また、この実験結果は、設計に用いる劣化強度関数の提案のデータにも寄与している。2)

謝辞

本論文の作成にあたり、汚濁防止膜再利用カーテン強度証明基準作成検討委員会の方々より貴重な意見を頂きここに記して感謝します。また、実験の実施に当たり、実験海域を提供して頂いた、国土交通省北陸地方整備局港湾空港部に感謝します。


参考文献
1) (財)港湾空港建設技術サービスセンター:汚濁防止膜技術資料(案)、平成20年4月
2) 長尾 毅、島田伊浩、三吉正英、小坂康之、力竹正広、東博之:汚濁防止膜カーテン強度の経時劣化評価法に関する研究、土木学会論文集B3(海洋開発)、 Vol.69(2013)、 No.2、投稿中.

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